世界のHPAI発生状況とその背景(4)

他動物との接触がウイルス交雑を招く

以上のように、HPAI は感染の広がり方や症状、人間への感染の可能性など発生地域やその時によって様々に変化する。しかし同時にいくつかの共通項も見えてくる。

  • AI の最初の感染は無症状の他の感染動物(水禽類、豚)との接触が原因となる場合が多い。この場合、庭先養鶏、放し飼い養鶏など外界と容易に接触できる飼育環境にある場合が多い。
  • MPAI ウイルスがHPAI ウイルスに変異する、または人間に感染するウイルスに変異するのは、別のAIウイルスと交雑することが原因と分かっている。このとき、鶏と人間のそれぞれに共通の抗原で感染する、豚の関わりが重要な役割を果たすと考えられつつある。しかしウイルス交雑が行われるには他動物同士が極めて密接に接触する飼育環境にあることが条件と考えられている。
  • AI の急激な感染拡大は鶏群同士が密集している場合が多い。もちろん発生後の感染防止には感染鶏の淘汰、生きた家禽や家禽製品、接触した人間の移動の禁止、徹底したモニタリングといったバイオセキュリティ措置を適切に行う必要がある。

最後に米国南カリフォルニア地域で大流行した外来性ニューカッスル病(END;Exotic Newcastle Disease)について報告する。END とは、従来から米国にあるニューカッスルウイルスの遺伝子タイプにないものが国外から侵入したことを意味する。米国でND が発生したのは1190 万羽を殺処分した1971 年以来、31 年ぶりのこと。この外来性の新しいND ウイルスによってカリフォルニア州は大変な問題が起きている。

2003 年1 月3 日、カリフォルニア州の大規模採卵養鶏場でニューカッスル病が確定診断された。異常が報告されたのは2002 年12 月18 日。農場では約1 万羽からなる2 群を飼育しており、そのうち1 群で診断が確認された。農場のすべての鶏群は殺処分された。感染個体の臨床症状は呼吸器、神経および胃腸症状で致死率は90 %を超えた。コマーシャル農場で発見されたのはこれが最初だが、カリフォルニア州で最初に確認されたのは2002 年10 月1 日である。今回のEND はロサンゼルスの都市部の闘鶏用の鶏から発生した。この地域には大変な数の闘鶏用の鶏が飼育されているが、米国は多民族国家なので一つの法律を運用するのにも民俗や文化の障壁を超えなければならず、思うように対策が進まなかった。闘鶏用の鶏は小規模で飼われている場合が多く、感染の可能性のある鶏の所在、飼育者を見つけて対応するのが非常に難しかった。また州は10 月1日の初発確定から11 月13 日に隔離地域が確定するまで1 カ月以上対策が取られず、また最初のコマーシャル鶏群での発生後1 月7 日に緊急事態宣言がでるまでかなりの日数を要してしまった。緊急事態宣言では1 億3000 万ドルの要求が行われた。

2003 年2 月6 日現在で、END は7 つのコマーシャル農場で発見された。1 月16 日にはネバダ州の小規模養鶏場で確認された。2 月4 日にはアリゾナ州でもインディアン居住区に飼育されていた鶏に確認された。ロシア、ブラジル、メキシコなど各国政府は発生州の、EUは米国すべての鶏肉輸入に禁止措置を行った(EU はその後発生州以外の輸入禁止措置を解除した)。日本はMPAI の発生に伴いカリフォルニア州からの輸入を一時停止していたが、この清浄性が確認された2 月14 日、END の発生農場の半径50km 以内のみ輸入停止措置を継続した(日本はND 発生国であるためND が疑われる鶏肉以外を輸入停止にはできない)。

その後、END は4 月10 日にテキサス州でも確認されたが、5 月31 日以降新たな陽性例を確認した施設は発出していない。7 月15 日現在で発生施設数は920 、処分が実施された施設数は2,507 、殺処分された家禽数は3,923,432 にのぼる。

放し飼い、庭先養鶏などの昔ながらの畜産経営は一見健康そうに飼われているように見える。ヨーロッパなどでは動物福祉、動物愛護運動が盛んで放牧型の有機畜産が広がっていたが、今回のHPAI 発生との関係性から、オランダでは屋外飼育が禁止されるに至っている。これまでの集約畜産によるバイオセキュリティの重要性や、安全は科学的リスクを正しく評価することから始まるということが、改めて見直されている。