世界のHPAI発生状況とその背景(2)

繰り返すバイオハザード:中国(香港)

トリインフルエンザはA 型インフルエンザウイルスの感染による家禽類を含む鳥類の疾病である。このウイルスは血清亜型という抗原の違いで感染する動物も違う。例えば人間ならH1N1 、H2N2 、H3N2 が、豚ならH1N1 、H3N2 、H4N6 が、馬ならH3N8 、H7N7 が、クジラならH1N1 、H13N9 が感染するとされている。

これはウイルスの抗原が鍵の役割を果たしており、その鍵の合う動物を宿主とするためで、特定の宿主の細胞内でしか増殖できないというウイルスの性質から来ている。鶏の場合はH1 〜7 、9 、10 、N1 、2 、4 、7 が確認されておりその範囲は広いが、HPAI についてはH5およびH7 しか確認されておらず人間では確認されていない血清亜型であるため、人間への感染は有り得ないこととされていた。

初めて人間への感染の可能性が指摘されたのは1997年の香港におけるHPAI(H5N1)である。18 人が感染、うち6 人が死亡した。すべて生きた鶏からの感染で、人間から人間への感染はなかった。この感染症の拡大を防止するため、鶏140 万羽が殺処分された。その後も2001 年、2002 年と過去3 回にわたってHPAI が発生し100 万羽以上の殺処分を行ってきた。香港では生きた鶏が流通販売される、いわゆるライブバードマーケット(生鳥市場)が主流であるため、感染鶏群が他の鶏群に接触する機会が多く、発生すると甚大なバイオハザードとなる場合が多い。

2003年2月にはまたもHPAI が流行した。しかも、再び人間への感染が確認された。香港保健局の発表によると、トリインフルエンザに罹患したのは2 例。2 例とも同じ家族であり、中国福建省に旅行後2 月8 日に香港に帰郷した。同一家の母親と子供たちは中国本土に14 日間、父親(33 歳)は9 日間滞在した。父親は福建省滞在中の2 月7 日に呼吸器症状を発病。彼は2 月11 日香港で肺炎のため入院したが、2 月17 日に死亡した。

インフルエンザA ウイルス(H5N1)が2 月20 日剖検時の検体から分離された。9 歳になる息子も福建省の親類を訪問中に発病した。息子は2 月12 日に肺炎で香港の病院に入院した。2 月19 日にH5N1 が、患者から採取された鼻咽頭吸引検体2 件から分離された。この一家の別の家族も呼吸器症状を呈した。この患者の8 歳になる妹は福建省滞在中の2 月4 日に死亡したが死因は明らかでない。

本流行の感染源を特定するため、香港当局は検査室検査および疫学調査を行った。香港では過去数週間、異常なインフルエンザの活動性を検知していないことがわかった。また、医師団はこの患者が福建省で鶏を飼育している親類を訪問後H5N1 株トリインフルエザウイルスに感染したことを確認した。検査の結果問題のウイルスには完全にトリインフルエンザ株由来であった。このトリインフルエンザウイルスにヒトインフルエンザウイルスの遺伝子が含まれていないことから、このウイルス株は人に感染しにくいと考えられた。ただし純粋に遺伝子学的データだけでは、このウイルスが人から人に伝染しないとは断言できない。疫学的データが必要である。これまでのところ人での感染例は以後出ていない。

Pro-MED 情報では「中国南部では比較的人に近接して野生および飼育された鳥類でも多くの別のトリインフルエンザ(MPAI)が感染しており、人から人へと感染伝播し得る鳥インフルエンザが発現するのは単に時間の問題に過ぎないかもしれない」としている。また中国の農村部では豚を鶏と一緒に飼育する農家が多い。 インフルエンザは鶏と豚の間で互いに行き来があること、人間から豚に行くことも明らかになっている。豚が一番変異を起こしやすい場所で、豚に感染することによってウイルスはいとも簡単に形を変えてしまうため、これが人間に感染するウイルスが発生しやすい一つの原因ではないかと指摘する研究者も多い。

なお、日本政府は5 月15 日、動物検疫所における中国産アヒル肉の検査の結果、トリインフルエンザウイルス(H5N1)が分離されたため、中国からの家禽肉等輸入の一時停止措置を行っていたが、8 月19 日には鶏肉のみ一時停止措置を解除した。鶏肉以外の家禽肉等については、家畜衛生条件の強化が必要として、当面輸入停止措置を継続している。

A型インフルエンザ感染動物と抗原亜型
トリ
(鴨)
H1〜15、N1〜N9 水禽類(水鳥)が本来の宿主と思われる
無症状
トリ
(鶏)
H1〜7・9・10、
N1・2・4・7
H1、H7には強毒もあり
ヒト H1N1、H2N2、H3N2
(H5N1、H9N2)
-
H1N1 、H3N2、H4N6 ヒトから感染したものと推定
H4N6はトリ由来
H3N8、H7N7 H3N8で大きな被害
アザラシ H1N1、H13N9 -
クジラ H10N4 -

※ 動物衛生研究所ホームページより作成